2014年10月25日土曜日

未来に掉さす光の一閃(ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展)

ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展
2013年11月9日(土)~12月23日(月)
名古屋市美術館


 夜空に輝く星の姿。それは遥か昔にある一点から放たれた光が、今ここに届く瞬間瞬間の残像である。たとえ今もうその星が存在していなかったとしても、光は届き続ける。私たちは未来から、その痕跡を眺める目撃者であるとも言えるのだ。
 戦後の日本、1960年代の社会において、際立った活動を展開した前衛芸術家のグループがある。高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之の3名を中心とする「ハイレッド・センター」だ。街中でゲリラ的に展開された「山の手線のフェスティバル」「首都圏清掃整理促進運動」等の「直接行動」と呼ばれるパフォーマンスを通し、平穏な「日常」のなかに「芸術」を持ち込むことで「日常」を「撹拌」しようと試みたという彼らの活動の全貌を紹介すべく、内容を詳細に追った展覧会「直接行動の軌跡展」が、名古屋市美術館で開催された。
 展示は主に、当時の彼らの活動の様子を記録した写真や資料と、実際に使われたものも含めた彼らの作品を中心に構成されていた。まるでポスターか雑誌の記事のような奇抜なデザインの解説キャプションや、1点で無造作に釘打ちされた作品キャプションといった演出的効果も手伝って、展示を巡っていると、自分自身が事件を追う新聞記者にでもなったかのような昂揚感・面白さがある。それは何よりも、ここで次々と紹介される活動のひとつひとつが今の私たちにとって新鮮であり、また、常識を揺さぶるような小気味よい刺激に満ちているからであろう。
 中でも作品として私の印象に残ったのは、高松次郎の《点》シリーズ、そして会場の最後に数点展示されていた、《影》のシリーズであった。この作品群が、何よりも今回の展覧会の性質を的確に表しているように思えたからだ。それはまさしく、過去のどの時点かで始まった「一点」が動く軌跡と、その痕跡=残像であった。
 《点》シリーズでは、まず水彩で描かれた黒い線と点の集まりが額装され並ぶ。その後、今度は立体として、ラッカーで黒く塗られた針金が絡まり合い、いびつな球状になったものが表れる。そのモチーフは次に「紐」として作品の中に表れ、当時の写真の中にも表れる。また、グレーの塗料でキャンバスに描かれた《影》の一群は、人やモノの影のみを描くことでその宿主―実体-の「不在」を強く意識させるという点で示唆に富んでいる。それまで紹介されてきたハイレッド・センターの活動の数々が、過去のどこかで起こった「点」のひとつひとつであったこと、言い換えればそれらの「影」でしかないことを、ここで私たちは現在に引き戻され、思い知らされるからだ。それは翻って、私たちの信じている「常識」や「日常」といったものもまたこのように儚い、僅かの刺激でも揺るがせにされるような社会の一側面でしかないことをも暗示しているかのように思われた。
 「ハイレッド・センター」という、過去のある一点において放たれた光は、時間を越えて未来の私たちにこのような形で届いた。夜空の星の光のように魅力的なその残像が、今、私たちの心を捉えるその理由はなんだろう。未来に掉さす光の一閃を、私たちはこの展覧会で目撃する。
egg:加々美ふう

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